歌う

坂本知亜紀

「〜フランスの香り〜」と銘打ったソプラノ、フルート、ピアノのサロンコンサート。坂本知亜紀の歌を聞いて、そのときはただ身体中が感嘆詞で膨らんでいるだけだった。が、あくる朝、目覚めと同時につながった、朗読家、幸田弘子だ!

今は昔かなり昔、図書館で借りて朗読、『たけくらべ』を聞いたことがある。なんだ、『たけくらべ』って易しい、面白い、ならば本で読みたいと思った。さっぱり解らない、2、3頁も進めない、一字一句違わぬ言葉なのに。幸田弘子の朗読の凄さに気づいた。

中国の莫言の文体を、「魔法のリアリズム」と言った教授がいたが、ならば坂本知亜紀、幸田弘子は、「表現の魔術師」だ。

聞いたのは歌だったんだけど、古代の踊りのなかに居た、否、踊りながら彼女は歌ったのではないか?その身体の弾み(のようなもの)に共振しながらのひととき。波打ち際にいるような心地よさもあったなー。

言葉に深く潜って行って、言葉を突き抜けた先の、人類に通底する「鉱脈」のようなところを表現しているのではないだろうか。

〈だってフランス語は解らないのに、身体はわかるんだから〉内田樹の口調になってしまうけど。

この1週間、書けども書けども消すしかなく、不安、無力感のなかに蹲っていた。原因はこれではないのだけれど…。