「母はやおつった」で始まっている(「やおつる→ひっこす引っ越す」の註あり)。簡潔にして大きな空間をもつ言葉。感情を排し事実のみであるからこそこの空間に万感の思いが籠る。読者もまた然り。鷗外の「石炭をば早や積み果てつ」を思わす。作者はこの言葉を反芻しつつ受け入れがたき事実に少しずつ近づいていくのだろうか。「ピーーヒヨOヒヨOロ…」の静けさの中でにっこり振り返る母がある。「みつえさん」は両手を振り振り「やおつ」る。去りゆくもの見送るもの、母と子の無言が広がる。
— 「ペコロスの母に会いに行く」, 変化するにちにち —
『続・ペコロスの母に会いに行く』今朝の東京新聞
2014年9月22日