内田樹『街場の戦争論』より(87頁)引用
僕たちは芸術ジャンルの消長と政治史の間にはなんの関係もないと思いがちですけれど、そんなことはありません。僕たちにとって自明の所与と思われている戦後芸術ジャンルのかたちでさえ「もし一九四四年以前に講和していたら」まったく違ったものになっていた可能性がある。
僕たちは「ないはずのものがある」ことには比較的すぐに気づくけれど「あってもいいはずのものがない」ことにはなかなか気づかない。「戦後すぐに執筆活動を始めて、戦後文学を牽引した大正生まれの作家たち」という「あってもいいはずのもの」がない。
この人たちがもし生き延びていたら、戦後日本の知的風景は僕たちが知っているものとはずいぶん違っていたものになっていたかもしれない。そういう想像力を駆使して、「あったはずのもの」の大きさに愕然(がくぜん)とすることもときには必要ではないかと僕は思うのです。
***読みやすくするために改行してあります。
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