詠う(短歌)

短歌:2017年10月号《ムグンファ・むくげ》

好日10月号より

ムグンファ・むくげ

*やすらかに眠ってはいない遺髪なし爪なし戦没者万骨の一つ

*この花は韓国の花無窮花(ムグンファ)と指差す声の弾みを聞きつ

*八月の日差しに混じる祖父の声      戦死した伯父の名が降りそそぐ

*「妹を肩車して畑なかを来る兄(あん)さんが昨日のようだ」

*「あんさんの船は強くて船体にひび入るまで艦砲射撃して」

*苦しまず爆発とともに死んだろう繰り返すのは母かわたしか

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もう一首あったのだが表現が未熟で意味が通じにくく翌月に改作し直した。 日本の木槿にうつむかず、誇りを持って咲いて欲しい気持ちを詠みたかったのだけど。

祖父母や母の、戦死した伯父への思い、気づけばいつのまにかわたしの身に入り込んでいる。特にお盆を過ごした祖父母のところでの記憶、子ども心に感じた言いようのない「空気」、八月になると体感とともに思い出される。

推敲しているうちに意味がずれてしまったが、一首めはどうしても詠みたかった。

万が一のために髪と爪を、友人◯◯君宅に預けたからと、佐世保港で伯父より直接聞いていた祖父は、戦死の報を受けて遺髪を受け取りに行ったのだが、そのようなものは無いと言われて帰って来た様子を、何年か前に母から聞いた。それさえ何百万分の一の「悲痛」なのだ。