白川静先生の漢字の世界

白川静先生の漢字の世界(2017年2月)

白川静先生のツイッター@sizukashirakawaからの抜粋です

2/28
*お葬式の時に「泣女(なきめ)」というのが居て、泣き上手を連れて来てね、嘆かせる。日本の古典にも出て来ますね。その泣女の役をやるのが【優】。俳優の【優】です。だから俳優の起源はね、この泣女。

2/27
*【ことば】は、古くは【こと】といわれた。【こと】とは【殊(こと)】であり【異(こと)】である。全体を意味する【もの】に対して、それは特殊なもの、個別を意味する。存在するものが、それぞれの個別性、具体性においてあらわれるとき、それは【こと】であり、【ことば】であった。

2/25
*この講話(文字講話)をやろうと提案したときには、私は八十八歳でした。主催の文字文化研究所の理事たちがみんな笑ってね、「大丈夫ですか」と(笑)。私は「これは神様に約束をするんで、あなたたちに約束するんではない。神様に約束すれば、神様はわかっていただける」と答えました。

2/22
*儀礼を行なうときには、その土主に酒をそそいで地霊をよび興し、その後に儀礼を行なった。[周礼]に「小祭祀には則ち興舞せず」とはその儀礼をいう。[詩]において【興】とよばれる発想法も、もとそのようにして地霊によびかける辞をいう。わが国の序詞や枕詞と、その起原的な発想の近いものである。
*【白】頭顱(とうろ)の形で、その白骨化したもの。されこうべの象形である。ゆえに【白】の意となる。偉大な指導者や強敵の首は、髑髏化して保存される。ゆえに【伯】(霸、はたがしら)の義となる。
*数字の【一】より【四】までは算木の数、【五】より以上は、【十】を除いて他はすべて仮借字である。【五】は器物の蓋、【七】は【切】の字から知られるように骨節の形、【九】は【虯】とよばれる龍の形である。

2/20
*【雲】は多く不安・不吉・離別のことを託して歌われる。人が死ぬことを「雲隱る」のようにいう。「天の漢霧(がはきり)立ち上る織女の雲の衣の飄る袖かも」[万ニ〇六三]のような表現は、中国の詩から学んだものである。
*【くも(雲)】空気中の水蒸気が一団となって、高く空に浮きただようもの。【くもる】はその動詞形。【隱(く)む】【籠る】などと同根の語であろう。【たなびく】【たつ】のようにいうことが多い。
*青銅器の原質は、神の器たることにあった。神の姿を表現することは容易ではないが、神の存在を示す方法はそれほど困難ではない。すなわち「坐(いま)すが如く」すればよいのである。神の器を供えることによって、神はそこに降臨するはずである。

2/15
*【弓】西周期の銘文にみえる冊命儀礼などに、彤弓(朱塗りの弓)彤矢・旅(りょ)弓(黒塗りの弓)旅矢などを賜与する例が多く、これらは儀礼に用いた。重要な儀礼の時には参加者によって競矢が行なわれ、それはその儀場の修祓を意味した。邪悪を祓うときには弾弦、すなわち弓弦を鳴らすこともあった。
*金文には【生】を【生+目】の形にしるすものがあり、目の形の部分は種子の象である。そこに無限の生命力が宿されていて、生成が行なわれる。無から有を生ずるようなその現象を、古い国語では【生(あ)る】といった。【生る】とは【顕る】、見えなかったものが、はじめてあらわれることをいう。

2/14
*【ほし(星)】夜空に光りかがやく月以外の天体をいう。【つづ】【夕つづ】のようにいうのが、その古名であろう。【つづ】は粒というほどの意味。【ほし】はまるい小さな点をなすものをいう。
2/13
*遊ぶ、というのは、他のことがすべて捨てられるような状態になりますね。

2/12
*【書】とは呪禁として用いる文字、祝詞をいう。文字には呪能があり、祝詞のもつことだま的な力は、ここに安定的に宿るものとされた。文字はことだまをその形のうちに定着させる力をもつと考えられたのである。

2/9
*犬牲は多く自然神、それも天上の神々に対して用いられるものであるから、灼くことを原則とした。【然(もえる)】は犬肉に火を加える形で、のち【燃】の字を用いるが、もとは犬牲を灼く儀礼をいう字であった。

2/8
*東アジアにおける古代歌謡の時代は、古代的氏族制の中核をなすものが外圧によって破壊され、新しい階級的関係に入るときに生まれた。[詩]や[万葉集]は、そのような意味をもつものとして、その比較的な分析の対象とすべきものであろう。
*【書】とは呪禁として用いる文字、祝詞をいう。文字には呪能があり、祝詞のもつことだま的な力は、ここに安定的に宿るものとされた。文字はことだまをその形のうちに定着させる力をもつと考えられたのである。

2/7
*この講話(文字講話)をやろうと提案したときには、私は八十八歳でした。主催の文字文化研究所の理事たちがみんな笑ってね、「大丈夫ですか」と(笑)。私は「これは神様に約束をするんで、あなたたちに約束するんではない。神様に約束すれば、神様はわかっていただける」と答えました。

2/6
*古代の人々にとって、死は再生であった。夜の森に、眼を光らせて出没する鳥獣は、姿をあらわすことを拒否する、霊の化身であった。時を定めて大挙して湖沼を訪れる鳥たちは、故郷を懐かしむ死者たちの、里帰りである。

2/3
*【な(名)】人の名、またはものの名をもいう。その名で伝えられている評判や名声をいうこともある。古い時代には、名は実体と相即不離のものとされ、名を知られることはその実体を支配されるおそれのあるものとして、容易に名を明かさぬ習俗があり、また実名を敬避する俗があった。

2/2
*国語の【まつり】というのは本当は【待つ】という意味の言葉の再活用語ですね。【待つ】というのは何を待つかというと、神霊が現れるのを待つのです。
*殷が滅んだのち、殷の子孫は周王朝の祭神に客神として参加した。客神は白馬に乗り降服の儀礼を再演し白鷺の舞を献じたことが、周の廟歌である[詩]の周頌諸篇に歌われている。同様のことは殷の時代の服属氏族によっても行なわれていたであろう。わが国の国栖・隼人・海部たちの服属儀礼と同様である。