変化するにちにち

竹内敏晴 語り下ろし自伝『レッスンする人』(藤原書店)

返却日は昨日であるが名残惜しくて、最後のあがきのように、ペラペラとめくることをやっている。この本が出版される前に竹内氏は亡くなっていて、「あとがき」がない。「父と私」を米沢唯氏、「編集後記」を藤原良雄氏が書いている。本はインタビュー形式で書かれている。病院でのインタビューだ。亡くなる三日前で終わっている。
最後に竹内氏の妻・米沢章子氏が聞いている。

*「竹内さん、人生で何が一番楽しかったの?今思い出すことだけでいいから、何か一言いってくれる?  いま思い出して、いま思い出して楽しかったのは何?」

*「……あぁ。唯を育てたこと。」

*「そう。それなら私の質問は終わり。もうそれでいい。」

このやりとりが輝いている。「唯」さんはほとんどの本に、「ゆり」「ゆい」さんとして、喃語を発するときからたびたび生き生きと登場する。「……あぁ。唯を育てたこと」、残されるものにこれほど力になってくれる言葉があるとは思えない。

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もう一つ留めておきたい言葉がある。

「わたしにとって、演劇活動は敗戦によって生の中心に大穴のあいてしまった少年がデモクラシーもヒューマニズムも身にそぐわず、欺瞞と抑圧の臭いに歯をむいて、ひたすらコロサレテタマルカ!と走りつづけて来た足跡であり、一方では幼時からの聴覚言語障害から抜け出して話しことばの獲得へ、人間の仲間入りへの、自己治癒のプロセスそのものであった。『ことばが劈かれた』体験と共にわたしの演劇活動は頂点を迎え、やがて転回する。[略]、次第に人間行動の根本そのものを探る『からだとことばのレッスン』のワークショップへと発展する」
(同、254頁)